1. 嚥下機能とは何か
嚥下(飲み込み)の仕組み
嚥下機能とは、食べ物や飲み物を口から胃まで安全に運ぶための体の働きです。私たちが普段何気なく食事をしている時、実は複雑な動きが体の中で行われています。嚥下は大きく分けて次の3つの段階に分かれます。
段階 | 主な役割 |
---|---|
① 口腔期 | 食べ物を噛んで、唾液と混ぜて飲み込みやすくします。 |
② 咽頭期 | 舌で喉の奥に送り込み、気管に入らないよう蓋(喉頭蓋)が閉じます。 |
③ 食道期 | 食道の筋肉が動いて、胃まで運びます。 |
日本における高齢者の嚥下障害の現状
日本では高齢化が進み、多くの高齢者が嚥下機能の低下による「嚥下障害」に悩まされています。特に65歳以上になると、加齢や病気の影響で飲み込む力が弱くなる傾向があります。
嚥下障害が進行すると、「むせ」や「誤嚥性肺炎」など命に関わる問題につながることもあります。そのため、日常的なトレーニングやリハビリテーションによって嚥下機能を維持することがとても大切です。
以下は、日本の高齢者における主な嚥下障害の原因と症状です。
主な原因 | 症状例 |
---|---|
加齢による筋力低下 | 食事中によくむせる、飲み込むのに時間がかかる |
脳卒中や神経疾患 | 食べ物が喉につかえる感覚、声がガラガラする |
まとめ:毎日のトレーニングの重要性
このように、嚥下機能は健康的な生活を送るうえで欠かせません。特に高齢者やそのご家族は、日々意識して嚥下機能を保つトレーニングを行うことが推奨されています。次回は具体的なトレーニング方法について紹介します。
2. 嚥下機能の衰えを予防する生活習慣
普段の食事で意識したいポイント
嚥下機能を維持するためには、毎日の食事がとても大切です。まずは、よく噛んでゆっくり食べることを心がけましょう。これにより唾液の分泌が促進され、飲み込む力も鍛えられます。さらに、和食に多い煮物や柔らかいご飯だけでなく、少し歯ごたえのある野菜や海藻なども積極的に取り入れることで、口周りの筋肉をバランス良く使うことができます。
食事時のポイント一覧
ポイント | 具体例 |
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ゆっくり噛む | 一口30回を目安によく噛む |
色々な食感を楽しむ | おひたし・根菜の煮物・きんぴらごぼうなど |
水分補給も忘れずに | お茶や味噌汁などで喉を潤す |
正しい姿勢を保つことの大切さ
嚥下機能には姿勢も深く関わっています。食事中は背筋を伸ばして椅子に深く座り、足裏が床につくようにしましょう。また、首が前に出過ぎたり、寝転んだまま食べると誤嚥(ごえん)しやすくなるので注意が必要です。
おすすめの座り方チェックリスト
チェック項目 | OKの場合の状態 |
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背もたれに背中がついているか | 〇 背筋が伸びている |
足裏がしっかり床についているか | 〇 安定して座れている |
顔がテーブルから遠すぎないか | 〇 適度な距離感で無理なく食べられる |
毎日の口腔ケアで健康維持
口腔内の清潔を保つことも嚥下機能には欠かせません。毎日朝晩の歯みがきはもちろん、舌や頬の内側も優しくマッサージしましょう。また、日本では「うがい」を習慣にしている方も多いですが、うがいは口腔内を清潔に保ち、感染症予防にも役立ちます。
簡単!自宅でできる口腔体操例
- パタカラ体操:「パ」「タ」「カ」「ラ」と声に出して繰り返します。
- 舌回し運動: 口を閉じたまま舌で歯ぐきをなぞるように回します。
これらの日常的な工夫や意識づけによって、嚥下機能の維持・向上につながります。
3. 自宅でできる嚥下体操
嚥下機能を維持するためには、日常的に簡単なトレーニングを取り入れることが大切です。日本のリハビリテーション現場でも推奨されている、自宅で手軽にできる首や舌の体操をご紹介します。
首や舌を鍛える基本的な体操
体操名 | やり方 | ポイント |
---|---|---|
首回し運動(くびまわしうんどう) | ゆっくりと首を右回り、左回りに5回ずつ回します。 | 無理なく、ゆっくり行うこと。 |
舌出し運動(しただしうんどう) | 舌を前・左右・上・下にそれぞれ5秒ずつ伸ばします。 | 顔の筋肉も意識してしっかり伸ばす。 |
発声練習(はっせいれんしゅう) | 「パ」「タ」「カ」「ラ」とはっきり発音します。各10回ずつ繰り返す。 | 口を大きく開けて発音する。 |
唇閉じ運動(くちびるとじうんどう) | 唇をギュッと閉じて5秒キープ、力を抜いて休む。これを10回繰り返す。 | 唇の周りの筋肉を意識する。 |
日常生活で取り入れやすいポイント
- テレビを見ながらや家事の合間に行うと続けやすいです。
- 毎日決まった時間に取り組むことで、習慣化しやすくなります。
- ご家族や介護者と一緒に楽しく実践するのもおすすめです。
注意点
体操中に痛みや違和感がある場合は、無理せず中止してください。また、ご自身の健康状態によっては医師や専門家に相談しましょう。
4. 食事前後のケアと注意点
食事前のうがいの重要性
嚥下機能を維持するためには、食事前のうがいがとても大切です。口の中に残った汚れや細菌を取り除くことで、誤嚥性肺炎などのリスクを減らすことができます。日本では緑茶や水でうがいをする習慣も広く浸透しています。
うがいのポイント
タイミング | 方法 | ポイント |
---|---|---|
食事前 | 水や緑茶でうがい | しっかり口全体をゆすぐ |
食事後 | 再度うがい | 食べかすもしっかり除去 |
唾液腺マッサージで嚥下機能アップ
唾液は食べ物を飲み込みやすくし、口の中を清潔に保つ役割があります。唾液腺マッサージを行うことで、唾液の分泌を促し、嚥下機能の維持につながります。以下は代表的な唾液腺マッサージの方法です。
唾液腺マッサージのやり方(日本式)
- 耳たぶの下を指先で優しく円を描くようにマッサージします。
- 顎の骨の内側(あご下)を指先で軽く押しながらさすります。
- 顎の先端部分(あご先)を親指で軽く押します。
誤嚥予防のための日常的な注意点
日本では高齢者施設などでも誤嚥予防が重視されています。以下のポイントに気をつけましょう。
注意点 | 具体例・アドバイス |
---|---|
姿勢 | 背筋を伸ばして座る 顎を軽く引く姿勢が理想的です。 |
一口量 | 無理せず少量ずつ口に入れる 急いで食べないようにしましょう。 |
会話・動作 | 食事中は会話や笑いながら食べることは控える 飲み込むことに集中しましょう。 |
口腔ケア | 食後は必ず歯磨きやうがいで口内環境を整える むし歯や歯周病予防にも有効です。 |
5. 地域や専門機関との連携
嚥下機能を維持するためには、日々のトレーニングだけでなく、地域の支援体制や専門機関と連携することがとても大切です。日本では、地域包括支援センターやかかりつけ歯科医など、身近な場所でサポートを受けることができます。ここでは、その活用方法についてご紹介します。
地域包括支援センターの利用
地域包括支援センターは、高齢者やその家族が安心して暮らせるように、さまざまな相談に応じてくれる窓口です。嚥下機能に不安がある場合も、気軽に相談できます。専門職(保健師・社会福祉士・ケアマネジャーなど)が連携し、一人ひとりに合ったサービスや情報を提供してくれます。
地域包括支援センターでできること
サービス内容 | 具体的なサポート例 |
---|---|
健康相談 | 嚥下機能低下のチェックやアドバイス |
リハビリ紹介 | 必要に応じて専門家への紹介 |
介護予防教室案内 | 嚥下体操などの教室案内 |
多職種連携 | 医療・介護・福祉のネットワークづくり |
かかりつけ歯科医との連携
嚥下機能はお口の健康とも深い関係があります。かかりつけ歯科医に定期的に通うことで、口腔ケアや嚥下機能の維持・改善につながります。また、歯科医院では摂食嚥下リハビリテーションも受けられる場合がありますので、まずは相談してみましょう。
歯科医で受けられる主なサポート
- 口腔ケア指導(正しい歯磨きや義歯の使い方)
- 嚥下機能検査(飲み込みテスト等)
- 摂食嚥下リハビリ(専門スタッフによるトレーニング)
- 食事形態や食べ方についてのアドバイス
地域資源の活用ポイント
一人で悩まず、「ちょっと気になるな」と思ったら早めに地域包括支援センターやかかりつけ歯科医へ相談しましょう。周囲と協力しながら進めることで、安心して日常的なトレーニングを続けられます。