膝関節・股関節の人工関節置換術後リハビリテーションの基本と流れ

膝関節・股関節の人工関節置換術後リハビリテーションの基本と流れ

手術直後の評価と患者教育

基本的な身体機能の評価

膝関節・股関節の人工関節置換術直後は、まず患者さんの身体機能をしっかり評価することが重要です。以下のような項目を中心に確認します。

評価項目 内容
痛みの程度 VAS(視覚的アナログスケール)などを用いて痛みの強さを確認します。
関節可動域(ROM) 膝や股関節がどれくらい動かせるかを測定します。
筋力 主に大腿四頭筋や臀部の筋力低下がないか調べます。
腫脹・発赤 手術部位に腫れや赤みがないかチェックします。
創部状態 傷口の状態や感染兆候がないか観察します。
全身状態 発熱や倦怠感など、全身症状もあわせて確認します。

患者さんとご家族への注意事項と指導

リハビリテーションを安全に行うため、患者さんご本人だけでなくご家族にも日常生活で気をつけていただきたいポイントがあります。

転倒予防について

  • 手すりや杖の使用:移動時は必ず手すりや杖を使いましょう。
  • 室内環境の整備:滑りやすい床や段差には注意し、マットやカーペットなどで対策します。
  • 足元の確認:靴下は滑り止め付きのものがおすすめです。

日常生活動作(ADL)の指導例

動作 ポイント・注意点
ベッドから起き上がる ゆっくりと体を横向きにしてから両腕で支えながら起き上がります。
椅子への立ち座り 座面は高めにし、手すり等を利用して行います。膝や股関節に急な負担がかからないよう注意します。
歩行練習 最初は歩行器や松葉杖を使い、安全な範囲内で行います。
トイレ動作 補助具(手すりなど)を使い、無理せず自分のペースで行うよう心掛けましょう。

ご家族へのサポートポイント

  • リハビリスタッフと連携し、無理のない範囲で患者さんをサポートしましょう。
  • 必要以上に介助せず、自立支援につながる声かけを意識してください。
  • 日々の変化や困ったことは遠慮なく医療スタッフへ相談しましょう。

人工関節置換術後は、不安や疑問も多い時期です。わからないことはその都度リハビリスタッフに質問し、安心して回復に取り組んでいきましょう。

2. 急性期のリハビリテーション

急性期とは

膝関節や股関節の人工関節置換術後、最初の約2週間を「急性期」と呼びます。この期間は手術による痛みや腫れが強く、体力も落ちやすい時期です。しかし、この時期から適切なリハビリテーションを始めることが、今後の回復にとても重要です。

主なリハビリ内容

目的 具体的な内容 注意点
可動域訓練(ROM訓練) 関節をゆっくり曲げ伸ばしする運動。ベッド上で無理なく行う。 痛みが強い場合は無理しない。医師や理学療法士の指示に従う。
筋力強化 太もも(大腿四頭筋)やお尻(殿筋)の軽い収縮運動。足を伸ばしたまま力を入れるなど。 術部に過度な負担をかけないように気をつける。
廃用症候群予防 全身の血流を促すため、足首を動かしたり、深呼吸を行う。 長時間同じ姿勢で寝ないようにする。

進め方のポイント

  • 最初はベッド上で出来る簡単な運動から始めます。
  • 痛み止めを使いながら、その日の体調や痛みに合わせて無理なく進めましょう。
  • 歩行練習は、医師や理学療法士の指導のもと、杖や歩行器を使って安全第一で行います。
  • 日本の病院では、ご家族がサポートすることも多いので、不安な点はスタッフに相談しましょう。

よくある質問とアドバイス

質問 回答・アドバイス
痛みがあっても動かしていいですか? 強い痛みの場合は無理せず、少しずつ進めましょう。軽い痛みは許容範囲です。
どれくらい動けばいいですか? 毎日数回、短時間ずつ継続しましょう。疲れたら休むことも大切です。
自宅でもできますか? 病院で習った運動は自宅でも続けられます。不安な場合は医療スタッフに確認してください。
まとめポイント(この段階で知っておきたいこと)
  • 早期からリハビリを始めることで、回復がスムーズになります。
  • 安全・安心を第一に、自分のペースで取り組みましょう。
  • わからない点や不安は遠慮せずスタッフへ相談しましょう。

歩行・移動訓練の進め方

3. 歩行・移動訓練の進め方

歩行練習の基本ステップ

人工関節置換術後、早期から安全に歩行能力を回復するためには、段階的な歩行訓練が重要です。まずはベッドサイドでの立ち上がりやバランス保持から始め、徐々に松葉杖や歩行器を使った歩行練習へ進みます。

松葉杖・歩行器を用いた歩行練習の進め方

段階 使用器具 練習内容
第1段階 歩行器 ベッドサイドでの立位練習と短距離の歩行
第2段階 歩行器または松葉杖(両側) リハビリ室や廊下での直線歩行、方向転換の練習
第3段階 松葉杖(片側)またはT字杖 バランス訓練と自宅環境に近い状況での歩行
患者指導のコツ
  • 痛みが強い場合は無理せず休憩を挟むことを伝えましょう。
  • 足元や周囲の安全確認を徹底し、転倒予防に注意します。
  • 正しい器具の使い方(持ち方・突く順番)を繰り返し指導します。

移乗動作と階段昇降練習の手順

ベッドから車椅子への移乗やトイレへの移動、さらに退院後の日常生活を見据えた階段昇降も大切なリハビリです。以下は一般的な手順です。

動作 ポイント
ベッド⇔車椅子移乗 患側(手術した脚)側に車椅子を配置し、健側(健康な脚)から立ち上がるよう指導します。
トイレ移動 十分なスペース確保と手すり活用を説明し、ゆっくり座る・立つ動作を練習します。
階段昇降 「上る時は健側から」「降りる時は患側から」を繰り返し伝えます。必ず手すりを持ち、安全第一で進めます。
患者へのアドバイス例
  • 焦らず、自分のペースで進めましょう。
  • 不安な時はスタッフや家族に声をかけてください。
  • 毎日の反復が早期回復につながります。

4. 自宅復帰・社会復帰に向けたアプローチ

自宅復帰を目指した日常生活動作訓練(ADL)

人工膝関節や股関節の置換術後、患者さんが安心して自宅で生活できるようになるためには、日常生活動作(ADL)の訓練がとても大切です。ADLとは、「食事」「更衣」「トイレ」「入浴」「移動」など、毎日の生活に欠かせない基本的な動作のことです。リハビリでは、以下のような内容を段階的に行います。

訓練内容 具体例
立ち上がり・座り込みの練習 椅子やベッドから安全に立ち上がる/座る方法を習得
歩行訓練 杖や歩行器を使用しながら室内・屋外での歩き方を練習
階段昇降訓練 手すりを使って安全に階段を上り下りする方法の指導
家事動作の練習 洗濯・掃除・調理など家庭内で必要な動作の確認と練習
自己管理指導 痛みや腫れの自己チェック、正しい運動方法の再確認

地域リハビリテーションとの連携

退院後も安心して地域で生活できるように、病院だけでなく地域包括支援センターや訪問リハビリテーションとの連携も重要です。必要に応じて、地域の理学療法士や作業療法士が自宅を訪問し、患者さん一人ひとりの生活環境に合わせたサポートを行います。

地域リハビリテーションサービスの例

  • 訪問リハビリテーション:自宅で直接リハビリ指導や運動指導を実施
  • デイケア:通所施設で集団体操や個別訓練を受けられるサービス
  • 住宅改修相談:手すり設置や段差解消など、住まいのバリアフリー化サポート

退院指導とサポート体制への連携

退院前には、多職種(医師・看護師・理学療法士・ソーシャルワーカー)がチームとなって退院指導を行います。具体的には、退院後の日常生活で注意すべき点や、服薬管理、転倒防止策、自主トレーニングの継続方法などについて説明します。また、ご家族にも一緒に説明し、サポート体制を整えることが大切です。

退院時指導内容 説明ポイント
服薬管理 処方された薬の飲み方や副作用の注意点
自主トレーニング継続方法 自宅で無理なく行える運動メニューと頻度の説明
転倒予防策 室内環境(滑りやすい床、障害物)のチェックポイント紹介
受診スケジュール案内 定期的な診察予約や異常時の受診方法を確認
家族への説明・協力依頼 介助方法や患者さんへの声かけポイント等の共有

安心して自宅・社会へ戻るために必要な支援体制とは?

患者さんが安心して自宅復帰・社会復帰できるようにするためには、医療機関と地域サービス、ご家族が一体となったサポート体制が不可欠です。それぞれが密に連携し合うことで、安全かつ円滑な社会復帰につながります。

5. リハビリテーションの継続と再発予防

中長期的なリハビリ継続の重要性

膝関節や股関節の人工関節置換術後、初期のリハビリで痛みや動きが改善しても、そこで安心せずに中長期的なリハビリを続けることが大切です。日本では高齢者が多く、生活習慣や環境によって筋力や柔軟性が低下しやすい傾向があります。そのため、リハビリを継続することで再発予防や日常生活の質(QOL)向上につながります。

再発や合併症予防の運動・生活指導

人工関節を長持ちさせるためには、正しい運動習慣と生活指導が欠かせません。以下のようなポイントを意識しましょう。

項目 具体的なポイント
運動 ウォーキングや軽い体操など無理のない範囲で毎日行う。医師や理学療法士から指導された自宅でできるトレーニングメニューを継続する。
姿勢 床に直接座る「正座」よりも椅子を使った生活スタイルを心がける。長時間同じ姿勢にならないよう注意する。
生活環境 転倒防止のため段差を減らしたり、滑りにくいマットを使用するなど自宅内の工夫を行う。
自己管理 定期的な受診や経過観察、違和感があれば早めに相談する。

地域包括ケアシステムとの関連

日本では、「地域包括ケアシステム」が進められており、自宅で安心して暮らし続けるためには医療機関だけでなく、地域の介護サービスやデイケア、訪問リハビリなど多職種と連携することが大切です。地域包括支援センターに相談し、必要なサポートを受けることで、自立した生活を維持しやすくなります。

地域資源を活用したサポート例

サービス名 内容
訪問リハビリテーション 理学療法士などが自宅に訪問し、その人に合わせた運動指導や生活アドバイスを行う。
デイケア・通所リハビリ 施設で仲間と一緒に運動プログラムに参加でき、社会交流も図れる。
地域包括支援センター 困りごとの相談窓口となり、適切なサービスや制度利用について助言してくれる。
まとめ:継続は力なり

人工関節置換術後は、中長期的なリハビリ継続と日々の生活管理がとても重要です。一人ひとりに合ったペースで取り組みながら、不安な点は専門職や地域資源を活用して解決していきましょう。